キャローネ

あノ花の香リ…赦しテ… あぁ…愛シてル…
元は大罪人を裁く処刑者だったが、絶望した果てに破滅し、狂気の姿へと成り果てた存在。 法によって定められた正義を是とし、その正義から逸脱した者を裁く処刑者となった彼は、元は生真面目で心優しい単なる一役人に過ぎず、過酷な職務によって苦悩に満ちた日々を送っていた。だが、それでも彼は国のため、そして人々の安寧のためと信じ、罪人を処刑し続ける。 そんな暮らしを送るようになって数年が過ぎたある日、彼は城内で一人の美しい女性と出会う。初めて出会ったとき、彼の鼻先をくすぐったのはほのかに漂うアーモンドの甘く清らかな香りで、それはどこか懐かしく、安らぎに満ちており、彼の荒んだ心に微かなぬくもりを与えた。 女性は彼が処刑者であることを知らなかったが、彼の誠実な人柄に惹かれ、二人はやがて恋仲となる。彼にとって彼女と過ごす日々はささやかながらも幸せな時間で、血の匂いと死に満ちた暮らしを忘れさせてくれるかけがえのないものだった。そして同時に、「彼女のような罪なき人を守るために自分の職務はあるのだ」という誇りを彼の心に与えてくれた。 しかし、それでも彼は彼女に自分が処刑を生業にしていることを伝えられずにいた。そして時が過ぎたある日、急遽、予定外の処刑が緊急で行われるとの報せが彼の耳に届く。罪人の罪状は“不敬罪”――つまり、正しき法と治世の象徴たる国王を侮辱したということである。 いったい誰がそんなことを、と思いながら彼がいつものように処刑用の大鎌を手に取り処刑場に向かうと、そこにいたのは、あろうことか愛する彼女だった。互いに信じがたい者を見るような目で見つめ合う二人。彼は現実を受け入れられないまま立ち尽くすが、しかしそれでも処刑者としての使命を果たすために、体を震わせ、血の涙を流しながらも無慈悲に大鎌を振り下ろした。 処刑を終え、男は心ここにあらずの状態だったが、そんな彼に国王が労いの言葉をかけた。そのとき、ふとほのかなアーモンドの香り――最愛の彼女がいつも纏っていた甘く優しいあの香りが、彼の鼻先をかすめる。さらに、王の頬に爪の引っ掻き傷を見つけた彼は、彼女の身に何が起き、そしてなぜ不敬罪にされたのか、すべてを悟った。 絶望と怒りに包まれたその瞬間、彼は人間とは異なる異形の存在・キャローネへと変貌を遂げる。手にした大鎌で眼前の王を、国を、そして世界そのものを切り裂くキャローネ。そして彼は、世界のすべてを斬り棄てるために、新たな世界を求め、果てなき彷徨を始めたのだった。

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