イプエクティ

ベルトは拘束するものだ… 何故なら飛ぶのに必要だからね♪
元は空軍のエースパイロットだったが、絶望した果てに破滅し、狂気の姿へと成り果てた存在。 とある侵略国家に生まれた彼は、幼い頃から旅客機のパイロットを夢見て絶え間ない努力を重ね、遂にその夢を叶えてからは、旅先の人々の幸せを願い安全に目的地へと導くその生業への誇りを胸に、日々を暮らしていた。 何より空を自由に翔けることを心から愛していた彼は、誰もが認める高度な飛行技術を身につけていたが、その天賦の才は戦時下の国家において貴重な武力とみなされ、空軍のエースパイロットに抜擢され、数多の戦場を駆け巡ることとなった。 誰よりも空を熟知するその力で幾度も自国に勝利をもたらし、多くの同胞の命を救った彼だったが、しかしその裏で、彼は同じ数だけ――いや、それ以上の敵の命を奪った。「国を、民を守るためには仕方がない」と自らに言い聞かせながら戦い続けるも、多くの人の命を奪ったというその事実は彼の心を確実に蝕んでいき、そしてついに限界が訪れた。 彼は国ではなく自分の家族だけを守ると決断し、あるとき、海の彼方にあるという平和で豊かな国を目指し、七人の家族を愛機に乗せて国外への脱出を行った。幾多の困難を乗り越えてようやく安住の地へと辿り着き、亡命者としてその国に受け入れられた彼らは、この新天地で新たに人生を始める――はずだったが、その平穏は突如として崩れる。 亡命から数日後、彼が乗ってきた飛行機が格納庫で爆発を起こしたのだ。轟音と共に立ち上る凄まじい炎が穏やかだったその国を無惨な光景へと変え、彼の家族を始めとした多くの命を一瞬で奪い去った。 彼の裏切りを予見していた祖国が、彼の愛機に密かに爆弾を仕掛けていたのだった。それは、彼の脱走を阻むと同時に、敵国に壊滅的な一撃を与える目的で祖国が用意した切り札だった。 瀕死の重傷を負った彼が、崩れ落ちた都市の瓦礫の中をさまよいながら、怒り、悲しみ、絶望のすべてが溶け合った感情によって心を壊され、爆炎で真紅に染まった空に彼の慟哭が響き渡ったその瞬間、彼は人の姿を棄て去り、異形の存在・イプエクティへと変貌を遂げる。 自由を求めて空を飛ぶことを何より愛していたかつての彼の姿はそこにはなく、自身の胴体から生える何本ものベルトで自身を拘束する不気味な異形へと成り果ててしまったのだった。

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